大島智衣の「oh! しまった!!」

しまったあれこれ随想録

〈62〉あぁ、無情 〜パンを盗まれた側の物語〜

『レ・ミゼラブル』のジャン・ヴァルジャンといえば、たった一切れのパンを盗んだために19年もの投獄生活を送ることになったが、これはその “パンを盗まれた側” の物語である──。 友人の結婚式2次会に参加したホロ酔いの帰り道、私は一つの箱を抱えていた。…

〈60〉なまはげの見せる夢

「昨日の晩、すごくコワい夢を見てさ」と母に話しかけると、「私も。なまはげに追いかけられる夢を見た」と遥かコワさレベルの上をいかれた。 さすがだなぁ、と思った。さすが、なまはげの故郷である秋田は男鹿出身の人間だ。見る夢が違う。 と同時に、不憫…

〈59〉千のオニパウになって

ラーメンに粉末スープを溶いた途端、ウッとなった。 これはもしや……いや絶対、アレだよね……? “野菜のおだし”の風味を生かしてます〜的な魚介しお味のインスタントラーメンを買ってきた。やさしそうなパッケージやネーミングの雰囲気に惹かれて。 それで、今…

〈57〉迷子のおじさん

拾ったスマホを交番へ届けに行ったら、迷子のおじさんに出遭った。 おじさんは「ちょっとわからなくなってしまって……」と途方に暮れた様子で交番へ入ってきた。カジュアルな格好で、すらっとしていてひょうひょうとしていて、白髪交じりで、リュックを背負っ…

〈55〉信じる者は食べられるパン

この夏、新しい職場に就いた。 これまでと業種も勤務地もあまり変わらない。だけどだからって、ラクとは限らない。 慣れるまでは、どんな仕事だって人間関係だって、辛抱が必要だ。私という人間を受け入れてもらえるのか、一挙一動に気が抜けない。 そして今…

〈54〉びしょ濡れのち変態

暖かい陽ざし降りそそぐ、春風が心地よいある日のことだった。勤め先のご利用客さんが洗濯をしたいと言うので、洗濯機のある屋上階まで彼を案内をした。 ずんずんと階段を上って行って、「こんなところにあるんスね〜」「そうなんですよー」なんて言いながら…

〈53〉彼と私の最短距離

ついにこの日を、迎えてしまった。 ショックというか、それでも「おめでとう」というか。「これまでありがとう」というべきか……。 今の職場に移ってからのここ一年半。 朝の出勤時に、大好きな歌手に似た男性と駅の近くですれ違うのを、私は楽しみにしていた…

〈52〉Boh! しまった!!

こんばんは。いかがお過ごしですか? 最近はというと、これまでどおり家と職場の往復の他に、夏に発症したじんましんの治療のための皮膚科通いが加わり、隣接の薬局で薬を処方してくれる薬剤師のお兄さんに唯一癒やされる日々です。「おくすり手帳」も忘れず…

〈51〉天かす馬鹿

天かすが好きなので、うどんや蕎麦にはついついごっそりと入れてしまう。そして、ふんだんに天かすが絡んだ贅沢な麺を思い切り吸い込むたび「ぶがぁっ!!」と天かすを喉に詰まらせ噴き出す。「次は気をつけよう」といつも思うのに、次にはまるで忘れていてそ…

〈50〉唐揚げとデートの適量

唐揚げの適量って幾つだろうか? 一食につき、それがメインのおかずであるならば4〜5個? ふた口くらいで食べられる中ぐらいの大きさのを4〜5個だろうか。「唐揚げ 定食」などで画像検索しても、だいたいそれくらいの量がこんもりと盛り付けられている。…

〈49〉モテのぶどう

かじったぶどうの瑞々しい果肉の中にきれいに納まった種らを見て、少し申し訳ない気持ちになった。 こんなに甘くておいしい実、たいそうありがたいけれど、あーたたちこれ、“種”の保存&繁殖を目的でやってるんでしょうに、食べるさまビニル袋に捨ててゴメン…

〈48〉虎穴に入らずんばハンバーグ

前回、バスでぶらりと出掛けたプラネタリウムでダライ・ラマの説法以来の心地よい眠りに落ちた私はさて、朝からナッツ類しか口にしていなかったので、おなかが空いていた。せっかく出掛けてきたのだから、と何かおいしいものでも食べて帰りたかったけれど、…

〈47〉ダライ・ラマ以来の熟睡

ようやく暑さが落ち着いてどこかへ出掛ける気になれたので、平日の昼間にバスを乗り継いでできるだけ遠くへ行ってみようと思った。最寄りのバス停から一番遠くへ行けるバスは「K駅行き」で、電車で行くと3駅先のところ、バスだと30分ほどで着いた。 さて、こ…

〈46〉カップル越しの秋

朝、駅からのバスに乗り込んだのは、純真な感じの若く初々しいカップルと私だけだった。 バスの中は静かだった。やけに静かで、なんだか違和感を感じた。 と、真ん中くらいの座席に座っていた私は、後方のカップルが気になり始めた。 これは……これはもしかし…

〈45〉カユミを止めるな!

先日、話題の映画『カメラを止めるな!』を男友だちと観に行った。(※ネタバレ一切しません※) 「観た?」「まだ」「じゃ、今日行っちゃう?」とタイミングよく二人で観に行くことになっただけで、デートってわけじゃなかった。友だちだし、デートじゃない。…

〈44〉どういうときのじぶんが好き

どういうときのじぶんが好きだろう。 益田ミリさんの『女という生きもの』という本のなかで、夏でも着物を着こなしている年配女性に出先の化粧室で出会ったミリさんが、迷いながらも「素敵ですね!」と声を掛けると、その女性がパッと笑顔になり、 “わたしに…

〈43〉待ち時間のトイザらス

先週、数年ぶりにじんましんが出た。ただでさえ「赤ちゃんみたいだね」「握るとクリームパンみたいだね」と言われるぷっくりした手の指たちが、いよいよ茹でたてシャウエッセンみたいになってしまったので、勤め帰りに皮膚科へ駆け込んだ。 すると皮膚科、75…

〈42〉ヒツジと歩けば

先日、生まれて初めてホストに声を掛けられた。驚きである。 これまで、どんな街でも、彼ら道端にわんさかたむろしているホスト諸氏たちは、きれいに私をよけてくれていた。そういうものだと思っていた。それが、夜9時過ぎ、駅までの道を急ぐショッピングモ…

〈41〉ヘッドゥスピニョーの帽子

勤め先の受付に、青年が訪ねてきた。「あのっ。落とし物届いてませんか? ニット帽なんですけど」ストリートダンスでもやっていそうな、お洒落でカジュアルなファッションに身を包み、若く活発ではあるが、少し人見知りする風の青年だった。 「まだ届いてい…

〈40〉抱擁の代用

抱き枕はもういらないから“抱かれ”枕がほしい。マジックテープとかでぎゅぎゅっと留めて、前から後ろから、抱かれたい。抱きしめられたい。そんな枕がほしい。 けれど、もうそれは、枕じゃないかもしれない。いや、はっきりさせておこう。 枕じゃ、ない。 し…

〈39〉幸せのウラオモテ

駅まで歩いて20分ほどの道も、暑くなってからは毎朝循環バスに乗っている。 「◯◯駅行き」のバスよりも、循環バスのほうが時間どおりに来やすい。そう気づいてからは、循環バスが到着するバス停からバスに乗る。 昨夏は、このバス停も今年ほど暑くはなかった…

〈38〉マンホールの守り人

もうバスのなくなった深夜に、駅から自宅へ帰る道のりは、本当はいつもちょっと怖い。人も車の往来もほとんどなくて、街灯もまばらな道路脇の道を30分ほどしんしんと歩く。と、いらしたの!? とばかりに、不意打ちに後ろから人が来るとなおさらに怖い。 そ…

〈37〉全然おぼえてない

男性と二人で食事に行ったり呑みに行ったりだして、あとになって何がショックって、彼がじぶんに興味がなさそうだとかあの日なんの進展もなかったなとかそんなことじゃなくて、彼らのほとんどなにも覚えていないことだ。何を言ったか以外にはだいたい。一緒…

〈36〉21世紀エレベーター少年

友だちの家を訪れるのにマンションの1階でエレベーターを待っていた。風通しのないこもった空間で蒸し暑く、足元を見ると蚊が飛んでいた。思わず足をばたばたさせて刺されまいとしていると、ドタドタと走り込んでくる音がして息を切らした少年が飛び出してき…

〈35〉スーパーボール効果

たいがい私も「考え過ぎ」だが、スーパーボールほど「弾み過ぎ」なヤツもいないと思う。 小学生の一時期、なぜか流行っていたスーパーボールは弾み過ぎて、ひとたび手から放たれ地面に打ち付けようものなら、あらゆる方角へ跳びはねてゆき、あれよあれよと道…

〈34〉モテない勇気?

思春期という湯船に浸かりながら、女子中学生時分の私は、ずいぶんと肉付きのいい己の腕やお腹の肉をつかんでは、 「この肉はHさんに。ここの肉はY子ちゃんに。ここはごっそりM美にッ!」 と、妄想の中で勝手に、スリムで男子に人気がある彼女たちに我が贅肉…

〈33〉きのこじゃなかった

前回、正体不明のじゃがいもみたいのが、きのこだった! ってことで、もうこの世の不可解なものすべての正体がきのこなんじゃないかと思われ、これまでじぶんがモテなかったのも全部きのこのせい! ってことにして安堵したところだった。 しかし、なんとアレ…

〈32〉じゃがいもみたい

「ヤー! 何コレー!!」という声が職場に響いたのでビクッとしてそちらを見やると、枯れ葉の上に乗っかった何かがそろーりと運び出されようとしていた。 「じゃがいも? 腐ったじゃがいもじゃない?」 「見た目、そうですよね? でも違うんです……メッチャ軽…

〈31〉新しい弟はギャル男

3年ぶりに浮気をした。彼と遠距離になってしまい、手近なところに手を出してしまったのだ。美容室の話です。 昨夏、「菊池亜希子ちゃん可愛いなぁ。菊池亜希子ちゃんになりたい」とバッサリ切ってもらったら田嶋陽子女史になってしまって以来、髪は伸ばしっ…

〈30〉どうか待ってて、本命の

ここのところ、やけに天丼が食べたくて。帰り道、ひと駅分先にある「てんや」まで歩いて食べに行くか否かで悩み続けていた。 行けばいいじゃないか。と思う。だけどナゼか、あらゆる方法で蹴散らしてきていた。 ある日は、スーパーで天ぷらのお惣菜を買って…