大島智衣の「oh! しまった!!」

しまったあれこれ随想録

〈6〉非モテの星の下

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また、言われてしまった。
気取らない街の、気取らない立ち呑み屋で、気取らぬじぶんのままでいられる友人女性たちと、楽しく飲んでいたはずだった。

ひとりのお姐様に真っ正面でロックオンされ、こう言われたのである。
「おーしまさん、貴女は綺麗だよ。でも、ヤセたいならヤセればいいよ」
いや、私今、別にヤセたいとかそんなハナシしてませんよね。サメの軟骨コリコリ梅肉和えを美味しくねぶっていたところです。お姐様もひとねぶり、いかがですか?
「貴女は綺麗! ただ、服装変えたほうがいいよ」

……また言われてしまった。口の中が梅味なまま、服のダメ出し。

こんな風に、たまに言われてしまう。

「とりあえず10キロヤセなさい」
「そんな靴履いてきて……」
「いっつもカラダの線が見えない服着てますよね」

どれも皆、女性からである。
アドバイスというか、つまりは私のことを思って、男ウケを考えて、敢えて口にしてくれている苦言なのはじゅうじゅう分かる。
だけど、なんでそんなこと言うのん? 頼んでも訊いてもいないのに、今。
いろんなこと、さんざん悩んで、結果今、すっぽりまるまる受け容れてたのしく生きようとしているのに、なぜ今また水さすのん?

もうだいたい、その場ではえへらへら取り繕っているけど、内心ガッチン殻を閉じている。
帰リタイ帰リタイ、アナタニ何ガ分カルノ、ドウシテソンナコト言ワレナキャナラナイノ………………塵屑(ちりくず)みたいな存在に貶められたような気にさせてくれた相手への恨み節と、何より、そんな必要としていない言葉を甘んじて被弾し精神的ダメージを負傷してしまうじぶんのふがいなさとで、それはそれは、まぁかなしい。

いいじゃないか。傷つく必要なんて、ない。
だけど、だけど……?

翌日、クローゼットをひっくり返してひさしぶりに白のフリフリのトップスを着た。
下は短めのタイトスカート。ストンとしたいつものワンピースとは違って、上下が分かれた“カラダの線が見える”コーディネートだ。
ヒールのあるパンプスも履いた。
そしてどうだ! ワイヤー入りのブラも着けた。
ノンワイヤーはおろか、“ノーブラ感覚のアンダーウェア”sloggi(スロギー)すら窮屈さを感じ自室では脱ぎ捨ててしまう女が、ワイヤー入り。これはもう、『巨人の星』の大リーグボール養成ギブスを装着しているも同じ。ギ・ギギ……ギチギチ、である。

そんなギッチンゴッチンで出勤してみた朝、同僚女子サンが開口一番「今日、おでかけですか?」と声を弾ませて話し掛けてくれた。
……キタ! やっぱりいつもと全然違うんだな……と、制服化している普段のワードローブを省みる。

だけど、呼吸浅く息も絶えだえに「や、ちょっと気分転換」と答えるのが精一杯。
出勤するだけで、窮屈だわ歩きにくいわカラダの線気になるわで体力・気力を使い果たしていた私は、軽い吐き気すらもよおしながらそのままトイレへ直行、大リーグボール養……いやワイヤー入りブラを外した。ふぅ。なんとも生きた心地がした。

やっぱりダメだった。服装を変えるどころかノーブラになってしまった。

それから丸一日、ノーブラなことがバレないように、思い切り猫背とあいまいな手の位置で過ごした。
「オシャレは我慢」というけれど、ホントもう非モテでも非オシャでもいい。 私があんな服装(好きで着ている)なのは、太っているのは、逆に非モテのためだとすら思ったりする。非モテの生きるオカシな道をこうして記し遺していくために、そんな星の下に生まれたのだと勝手に天命化している。

「おつかれさまでした〜楽しんできてくださいね!」
帰り際、入れ替わりの遅番男子がそう声を掛けてくれた。

いつもと違う様相にこれからデートだとでも思ってくれたのだろう。違うけどね。ノーブラだしね。明日からまた元の服装に戻るけどね。

そうだ、どうしたって楽しんでじぶんらしく生きよう。
非モテ」とは、非◯◯という“じゃない方”の呼び方ではなく、それ自体に名前を付けるなら、「じぶんらしく生きる人」のことに違いないのだ。