大島智衣の「oh! しまった!!」

しまったあれこれ随想録

〈14〉鎌倉なんかで泣いた日

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よく曇ったキンと寒い日曜日、カタヨリ荘の皆んなで鎌倉へと出掛けた。

「鎌倉はほぼ初めて」 という優恵さんは、誰が見てもウキウキのはしゃいだご様子。 長谷駅のホームでよくわからないメダルの自販機を見つけ、即断で硬貨200円を投入。足りない小銭を(真っ先に購入した)登茂子さんに借りてまで。

となれば私も……と流れに乗って200円を散財。
だって、優恵さんも登茂子さんも魅かれたモノなのだから、素敵なモノに違いないのだ。私だけ持っていなかったら「だからおーしまさんは素敵になれない」なんて思われるに違いないのだ(?)。
だけど、どう見ても色味からして10円玉。200円出して10円が返ってきた心地であった。


これで私も素敵な人になれるはず!
長谷駅のよくわからないメダルと、由比ヶ浜で拾った貝殻

 

咲き始めた梅が美しい長谷寺を歩いた。
池に張った氷をすくい「うぇーい」と優恵さんにちょっかいを出したら、「やめなさいっ!!!」と怒られた。
「はしゃいだ大人はケガをするからね」と利重さんが優しく笑う。 はしゃいでいるのは優恵さんも同じはずなのに……“はしゃぎ方の違い”よ。ぬう。

吸い込まれるように全員で入った洞窟で、キツい中腰の姿勢で進まざるを得なく、私の後ろからすごいご老人が「ぐふぉっ……ぶふぉほーっ……」と老体にムチを打って付いてきてらっしゃるなと思ったら、相原さんだった。相原さん!笑

お昼は長谷駅から線路沿いに少し歩いた手ぬぐいカフェ 一花屋へ。
古民家の造りに、広い広い窓から眺める庭が美しい。ご飯もおいしい。お店の人たちの心持ちの良さが伝わってくる。
そして、窓際には庭にかぶりつき状態の二人掛けソファ! カップルがちょうど座っとる!

いいなぁ。私もいつかデートで来たい。あのソファ、小ぶりだからめっちゃ密着できちゃう。「ちょっと寒いね」なんて言いながら、彼が私の手を取り暖かい息をはーはー。やめて恥ずかしすぎるからぁ! でもその息、もういっそ耳元に吹きかけてもらってもいいですか!? そう! そのへんっ(昇天)!!!

……なんて、まじまじとカップル席を見つめながら妄想していたら、そういえばじぶんも男子と鎌倉に来たことがあったとずいぶん前の出来ごとを思い出した。

30歳を前にした頃から、いろいろ思うように行かなくなり過ぎて、塞ぎ込んでいた時期があった。それでも、ほんの時たま、ある友人男子に誘われて外に出掛けた。

そのときも、鎌倉に詳しい彼の案内で山の上の檑亭へバスで登り、上品な蕎麦を食べた。長谷寺にも寄った記憶がある。どちらも庭がとても美しく手入れされていた。

日が落ちて、鎌倉駅前の店に適当に入って腰を落ち着けた。西か東か、どっち口だったかは覚えていないけど、ビルの2階にある和風居酒屋か何かだった。

あの頃はまだ、誰かに期待していて、つらい気持ちを知ってもらいたい、寄り添って助けてほしい、なんて思えていちゃっていて。 私はこんななのに、死にたいってそればかりなのに、それなのにあなたは、こんなに落ち窪んでいる友だちを、まったく感知せずにじぶんのことばかり話していて……といった様なことを彼にこぼしてしまった。
男の子にしたら、こんな状況すっごく「マジか」だったに違いない。悪いことをしたと思っている。ここ、鎌倉なのに!

帰りの電車で別れてから、彼からメールが届いた。
「ともえさんが死んだらすっごくやだよ」

その日から、「すこしでも嬉しかったこと、楽しかったこと、心が動いたこと」を日に一つ、メールで送り合うことになった。彼の提案だ。
なんてメンドクサいことをしてくれるのだろう、こんなシチメンドクサい友だちのために……とこの上なく申し訳なかったけど、それでも毎日、送り続けた。お互いに。
何を書いたかは覚えていない。たぶん、「ベランダの花が綺麗に咲いた」とかそういうこと。
それはひと月続いて、ひと月経ったところで、もうだいじょうぶ。じゅうぶん。ありがとう。と伝え、彼には肩の荷を下ろしてもらった。三浦半島で枝豆をひたすら切り落とすバイトを始めたのはそのあとだったと思う。

死んじゃだめだなと思う。この友のためにも。

それは、今まで思いをくれたぜんぶの人たちのためにもだ。 鎌倉なんかで泣いたあの日。カタヨリ荘のおかげで今日もこうして生きていること。あのよくわからない江ノ電のメダルが、記憶の架け橋の切符となって、そんなことを思い出したり、あらためて気づけたに違いない。 10円どころの価値ではない、素敵な素敵なメダルを私は手にした。