〈16〉バレンタインの脇役
中学でも高校でも、部活の部長だった。
中学ではソフトボール部の、高校では演劇部の。
そんな部活動バリバリの部長女子だった私は、バレンタインデーは、放課後に意中の男子にチョコを渡し悪びれもせずに部活に遅れてやって来る部員女子たちを、「もう〜遅いゾ〜」と冗談っぽくヘラヘラ笑って迎え入れるほかない、哀しき“脇役”であった。
「遅刻してきてんじゃないよっ。部活を何だと思ってるの?」
表向きはそんな風に思っていたはず。でも、 「部活なんかより恋!」 そうはっきりと、当たり前に選べてしまう女子が、本当は羨ましかった。全然、間違ってない気がした。
それに、彼女たちを否定したら、じぶんもひっくるめた女子全体を否定することになる気も。 私も部長じゃなかったら、部活なんて二の次で、この日のためにチョコをめちゃくちゃ準備して、朝もドキドキして、授業中も気もそぞろで、ついに放課後! ◯◯君、チョコ!!! ……ってやりたかった。そっち側の女子になりたかった。
でも、部長だから。部活が最優先だから。放課後にチョコなんて渡せるヒマなんてないから。そうやってはなから諦めていた。
けれど、本当にそうだったのだろうか。 勝算もない恋する身に、チョコ一箱小脇に携えて恋愛合戦の最前線に出撃する勇気なんて、私には微塵もなかったと思う。部活は言い訳。それもきっと分かっていた。
だから彼女たちを怒るなんてできなかったし、 「激戦の地からよくぞ無事に戻られましたなっ! 湯を沸かせ! ゆっくりとひと休みするがよい!」 と讃えるような気持ちで、一方では迎えていたのだ。悔しいけれど。
*
部活ひと筋だった学生生活を後悔しているわけではない。 ただ、まぁ。バレンタインといえば、貰えなかった男子たちの悲喜こもごもをよく耳にして「大変だなぁ」と思うものだけど、女子にも、その日誰かにチョコを渡す主役にもなれない女子の悲喜こもごもがあったよなぁ、と思い出されたのだった。
「あなたにチョコをあげたかった女子が本当はいたけれど、彼女は部活の部長だったんだよ、きっと」
と、貰えなかった男子には言ってあげたい。
*
そんな私は、今年も誰にもチョコを用意できず終い。もはやベテラン名脇役の域にきている。そろそろ引退したい。