大島智衣の「oh! しまった!!」

しまったあれこれ随想録

〈17〉鉄の女じゃない、姉だもの。

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先日、部屋でくつろいでいたら、あっという間に動悸がひどく襲ってきた。
それがあまりにも強くけたたましく早鐘を打つものだから、あらら、このまま死んでしまったりするのかしら? と己の最期を想像し、実家暮らし独身女子の脳裏に浮かんできたのは、 「こんなに散らかった部屋を遺して逝ってしまったら家族に申し訳なさ過ぎる」 という思いだった。

他に思い残すことはないのだろうか。
「◯◯さんのことすっごくすっごく好きです!」とか、伝えなければ後悔するような想いを伝えなくてもいいのだろうか?

だけどいないんだ。今はそんな“好きな人”が。
前はいたのに! 前はいたのにっ!! 皆んな誰かのものになっていく!!!

では親への感謝は? 最期にあらためて伝えなきゃじゃない?
入院中の母はもうすぐ消灯時間だし、父は今ジムだ。お気に入りだという大浴場ジャグジーに浸かっている頃だろう。着信に気づくはずもない。

ならば弟たちへの惜別の挨拶は? というか救急車を呼ぶにしても、側にいて付き添ってくれまいか。とスマホで電話を掛けるも……弟たち二人とも、出やしない。

ああ。こんな風にして、こんなにも散らかった部屋で、私はひとり逝くのだろうか。
己の不摂生の自業自得沙汰に観念しながら、心臓バクバクしながら、天井を仰ぐしかなかった。

数分後。上の弟から《何か用ですか?》と返信が来た。
《助けて!来て!動悸が激しくて怖い!》と必死すぎる短文メッセージを送ると、もの凄く面倒くさそうにだがやって来てくれた。ホッ。(弟たちは同じマンションの別の部屋に住んでいる。コツコツ型の上の弟が購入し、下の弟はそこに破格で同居している。)

少しして、ようやく動悸がおさまってきたので、 「もう大丈夫そう。ありがとう」とお礼を言って、「また動悸が襲ってきたら、申し訳ないけど、また……」と恐縮しながらお願いしようとしたら、出ていく背中越しに彼はこう言った。

「できるだけ、もう呼ばないで」

へ?

下の弟は小一時間後にようやく《なんですか?》と返信をよこした。(というか、弟たち二人共なんでそんなによそよそしく敬語なのだろう?)
《や、ちょっと激しく動悸がしたもので。今は落ち着きました。今後また私から着信があって今みたいに返信くれても私から返事がなかったら、部屋で一人死んでるか瀕死状態でいるかもしれないので、様子見に来て救急車を呼んでほしい。そう願っていることだけ伝えておきます……》と、頼まれごとをひどく嫌う彼にやんわーり“思い”だけを伝えると、《分かった。けど、死ぬときゃ死ぬから!》

……。

まぁね。前々から分かってたけどさ。姉ちゃん、弟たちにめっちゃ嫌われてる。

あんなに可愛がったのにね。5才下と9才下の弟たち。
オムツも替えて、お風呂に入れて。保育園のお迎えだって行った。

……きっと私が、いろいろうるさいこと言い過ぎちゃったんだよね。ゴメンねとしか言えない。それでも、愛してるとしか言えない。姉だもの。

少しして、風呂に入りに来た上の弟が部屋を覗きに来た。
「姉ちゃん大丈夫?」
なによ、なによ、今さらなによー!(じわぁ)
「大丈夫だけど……さっきは悲しかったよ……あんな風に言われてさ……姉ちゃんはひとりで死ぬんだなって……あんたにはもう頼らないから……」
すると、弟は苦笑いをして、
「ごめん。さっきは俺もちょっと、機嫌が悪くて」

ぶへっ(涙)。

というわけで、基本的に誰にも頼れないことを再確認した翌日。
循環器系の病院へ駆け込み、諸々の検査の結果、心臓に問題はなかった。鉄分が思い切り不足していることが分かった。貧血からくる動悸っぽい。

そういえば、父も弟も貧血持ちなので、“遺伝”で腑に落ちる。
けど、母も昔、急性心筋梗塞をやっているので油断ならない。
というか、これってもう更年期障害な気も。そんなお年頃なのだ、いつの間にか。

そうして、部屋を少しずつ片付け始めた(終活?)。 死ぬ思いをするまでじぶんの部屋を片付ける気にならないなんて。

机の上の山積みだったゴチャゴチャの中から二千円が出てきた。鉄分サプリの足しにします。