大島智衣の「oh! しまった!!」

しまったあれこれ随想録

〈21〉寿司の乗る木

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ある朝、公園の入口の大きな木に貼り紙が巻き付けられていた。

《植替えのお知らせ》

この木は育ちが悪く、経過観察を続けてきましたが、 回復の見込みがないため植え替えます。

なんたるもの哀しさ……! 毎朝、この公園の木のそばを横切って、職場へと向かっていたというのに。仕方のないことなのだろうか。

だけど「経過観察を続けてきました」というのだから、努力してきた感は感じさせられる。だからこの判断はいたしかたない選択だったのです、と納得させ諦めさせるエクスキューズ感も満々に伝わってくる。仕方ないのだろう。

少しして、木は別の木に植え替わっていた。 あの木はいったい、どこへ行ったのだろう。

ふと、それまでとても好きだった人に向けて、心の中でこうつぶやくことがある。

「死ねばいいのにっ」

ハッとする。心の中でこうつぶやくときはいつも、その恋が“終わった”ときだ。

相手に勝手に想いを寄せ、それが報われないとなると今度は勝手に傷つき、愛憎まみれのヒドイ言い草で、行き場のない想いを、なんとか払拭しようとする。「大好きだったのに」と泣き続ける代わりに。

それにしてもヒドイ言い様だ。できるだけ、内緒にしておきたい。

私があの木だったら。 そんな私の胴体には、こんな貼り紙が巻き付いているだろう。

《恋の終わりのお知らせ》

この恋は育ちが悪く、経過観察を続けてきましたが、 成就どころか発芽する見込みがないため、諦めます。

がびびーん。

思えば、私は、誰かを好きだという気持ちがやがて失くなるという経験をしたことがない。 「好き」から「もう好きじゃなくなった」と気持ちが移ろい変わる前にまず、好かせてもらえない。

いや、振り向いてもらえなくたって想っているだけでもいいじゃない?

……無理だあ。できなくないけどやっぱり難しいと思う。
ダイエット中にカップヌードル(シーフード味)の美味しそーな匂いが漂ってきて、「今すぐかっ喰らいたい!」って衝動を抑えなきゃならない時くらい、難しいと思う。

中越しにとか遠巻きにだけじゃなくて、真正面から顔覗き込んで「好き!」って言いたいし、触りたいしぎゅっとしたいんだもの。

だから、じぶんから想いの数々を断ち切ってきた。 そうやって無理に引っこ抜いた木々たちが、心のずっと向こうの方でだけど、ある程度もう、雑木林くらいになってる。

だから余計にもの哀しかった。 育ちが悪くても、回復の見込みがなくても、成就しそうになくても……植え替えなきゃダメ? 根っこから掘り起こして、放らなきゃダメかな? って。

あの植え替えられた木──せめて、とびきり美味しいお寿司屋さんの、メチャクチャ腕のいい職人さんが握った、ピッカピカのお寿司が「あいよ!」と乗っけられる、木の板になっていますように。