大島智衣の「oh! しまった!!」

しまったあれこれ随想録

〈28〉一番最初にできなかった人

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小さい頃、TVで観ていたお気に入りアニメ『魔法の天使クリィミーマミ』のおもちゃのステッキを買ってもらった私は、早速そわそわと自分の部屋にこもり、こっそりとステッキを振ってみた。

パンプル ピンプル パムポップン

呪文を唱え、アニメで観たとおりに、ト音記号を大きくなぞるように舞った。

……。

何も起きなかった。 何にも変身できなかった。

しーんとした部屋にひとり、ピンピカしたピンク色の杖を持った私がぽつん。 そのとき、ようやっと私は知った。

“魔法は 使えない”

そんなことは、いくら幼くても、頭のどこかで分かっていたとは思う。 だけどまた心のどこかで、 “それでも、私は使えるかもしれない” と、ほのかな期待を抱いていた。

“特別な奇跡が、じぶんだけにはもしかしたら起こるんじゃないか”

そんな期待を打ち消す力を持ち備えていないほどにはまだ幼くて、現実を知らず、純粋だった。
でも同時に知ったのだった。“私は特別ではない”ということも、このときに。

“やりたいけど、決してできないなことがある”ということを、 “どうしたって叶わないことがある”ということを、 私たちはほとんど、読んだり聞いたり、学習によって知る。

が、誰だって最初の最初、ずーっと昔の人は、その不可能だってことも知らなかったはずで。

ということは、一番最初にその事実を知り得た人って、すごいよね? とにかく「やってみた」んだろうね。

やりたくて、やってみて、できなくて。待って、もう一度やってみて、できなくて。 それを繰り返して、やっぱりできなかった! それで、あゝこれは、どんなにしてもできないことなんだ……! と知り得るまで、やってみた。

一番最初にできなかった人の成果たるや!

そう。私たちは、願ってもいろいろできない。 自力では飛べない。とか、 時間はどうしたって戻らない。とか、 死んでしまったら、どんなに泣いても生き返らない。とか……。あと、 どんなに目を凝らしても服の下の裸は見えない。とかね。

今や、みんながその不可能を知っている。 そしてそこにファンタジーを夢見て楽しんだり、テクノロジーの力を借りて実現化させたりする。鳥人間コンテストのように。(あんまり飛べてないけどね)

でも、そうした事実を、先人の知識を、読んだり聞いたり、まだ学習していないタイミングでやっちゃうケースがあって、それがあの薄暗い部屋でひとりクリィミーマミをなぞった私も、その一つだ。 「魔法は使えません。魔法はファンタジーです。私たちの住む世界はノンファンタジーやで」とまだ知らなかった私が。

あれから、何十年も経った。たくさんのことを知ったじぶんがいる。

恋はいつもうまくいかなくて、なぜだか相思相愛にはなれなくて。 「どうせ今回も無理」と恋愛市場にエントリーすらしなくなっている。

もはや、相思相愛なんてものは魔法とおんなじ“くくり”。 どんなにステッキを振っても叶わない夢のまた夢だ。

そんな風に及び腰になり過ぎた時には、これまたお気に入りの韓国ドラマ『私の名前はキム・サムスン』に出てきた詩の一節を思い出す。

愛せよ、傷ついたことなどないかのように (アルフレッド・D・スーザ)

素ン晴らしい。でも、無理だー。傷跡を見て見ぬふりはできないよー(笑)。

だけど。あの“一番最初にできなかった人”の成し得たことを思えば、 「内外ともに残念めの私が、引く手あまたそうな男子Aに振り向いてもらえるはずはない」 といつものようにすぐに諦めたりするのは、まだ早合点なのではないだろうか?

だって、このケースはまだ誰も試したことがないはずだ。 だって、誰も私自身ではないんだから。

それを、世間の通説で「たぶんゼッタイ無理」と諦めるのは間違っているのでは? 「傷ついたことあるし!」と傷をなぞったりするのは感傷的過ぎやしないかい? 私はそれを初めて試してみて、大いに良いのじゃないだろうか?

……良いに違いないっ! 統計的にはさ? 限りなく無理なパターン、というやつではあろうけど、なにしろそれは、あくまでも統計であって憶測であって、内外ともに残念めの私と引く手あまたそうな男子Aとが導き出した結果ではないのだ。一番最初にやって、叶えた人になればいい。

なーんだなんだっ! どうして今まで早々に「この恋、無理ムリ」って決めつけていたのだろう。どんどん恋して良いんだよ、皆んなー! フォ〜!!(先週訪れたハワイアンズの興奮をまだ引きずっている)

けどそれで、一番最初にできなかった人になることは、あるだろうけども。

ま、その時の傷を治癒する方法くらいはもう、いくらでも知っている。 ホロッホロのお肉や、トロけるクリームのスイーツあたりを口いっぱいに頬張れば、いくらかは、ね。