大島智衣の「oh! しまった!!」

しまったあれこれ随想録

〈41〉ヘッドゥスピニョーの帽子

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勤め先の受付に、青年が訪ねてきた。
「あのっ。落とし物届いてませんか? ニット帽なんですけど」
ストリートダンスでもやっていそうな、お洒落でカジュアルなファッションに身を包み、若く活発ではあるが、少し人見知りする風の青年だった。

「まだ届いていませんね。どんな色の帽子ですか?」 そう質問すると青年は、

ヘッドゥスピニョー、なんですけど」

ヘッ……ス……? え、それどんな色?? シルバーグレイがかったメタリックなスカイブルーとか?

ヘッドゥスピニョーの帽子です」

いや、だからヘッドゥスピニョーって何だ? っつう話なのね、今。
ブランド名か何か? ヨックモックとかケーニヒスクローネ(どちらも菓子銘柄)とかそんな感じの、ファッションブランド?

咄嗟に男子がよく着用しているヘビのマークの帽子が浮かぶ。でもあのブランド名を知らない。あれがヘッドゥスピニョーなのだろうか? 今こそマストバイなのだろうか? いや、そもそも私は色を尋ねているんだ青年! と目を丸くしていると、

ヘッドゥスピニョーです。ヘッドゥ、スピんヌ、ヨー

ゆっくり繰り返されたところで、ますます分からないのだった!
青年は頭のあたりで手のひらをくるくるさせている。なんのつもりなんだ。この混乱の中、しかし、青年の顔がカッコいいことだけが唯一理解できるのだった。俳優の新田真剣佑(あらた まっけんゆう)みたい。

あ、え? 待って、真剣佑。その手のジェスチャー、ストリート系の出で立ち……もしかして“ヘッドゥスピニョー”って……

ヘ ッ ド ス ピ ン 用 [Head spin you]?

「はいッ、ヘッドゥスピニョー!

ニョーーー!!!

英語ネイティブな青年なのかもしれない。 もしくは、カリフォルニア育ちの本物の新田真剣佑だったのかもしれない(?)。

そんな帽子があるの初めて知ったし、へ〜と驚きだけど、まず、まずもって発音が良すぎるんだよ。新田・リエゾン・マッケニュー(Makken yu)。

いずれにしても、マッケニュー青年。私が教えてほしいのは、用途ではなく色なんだ! 大切な落とし物があなたの手元に再び戻ってくるための重要な手がかり。それが色! お洒落用だろうが、防寒用だろうが、ヘッドゥスピニョーだろうが、あまり関係ないの。色なの、色!

今一度ていねいに訊きなおしてみた。黒だそうだ。 残念ながら、それらしきものは拾得されてはいなかった。肩を落として帰っていった。かわいそうに……。

黒いニット帽を拾った人がいたら、どうか彼に届けて欲しい。ちなみに、ヘッドスピン用です。