大島智衣の「oh! しまった!!」

しまったあれこれ随想録

〈43〉待ち時間のトイザらス

f:id:ohshima_tomoe:20190416015552p:plain

 

先週、数年ぶりにじんましんが出た。
ただでさえ「赤ちゃんみたいだね」「握るとクリームパンみたいだね」と言われるぷっくりした手の指たちが、いよいよ茹でたてシャウエッセンみたいになってしまったので、勤め帰りに皮膚科へ駆け込んだ。

すると皮膚科、75分待ちだという。なんと!
待合室は座れない人もいるほどぎゅうぎゅうだった。

仕方なく、そうでなくともこの待ち時間では外で時間を潰そうと思った。
少し離れているが、駅前まで戻ってなにか食べてでも来ようか? だが、体じゅうあちこちかゆいのでそんな気にもなれない。周りに唯一ある店舗といえば、トイザらスである。
トイザらス……。トイザらスで、40代独身女性・玩具をプレゼントする甥も姪もなし。が75分も潰せるだろうか? 確信のないまま、少しでも冷房の効いた店内へとトイザらスに逃げ入った。

♪こどもでいたい ずっとトイザらスキッズ〜 大好きなオモチャにかこまれて〜

トイザらスソングがループする店内。平日の夜遅くで客はまばら。皆、家族連れ。
そこに、沸々とおそらくストレス性じんましんが絶えず体内から噴出し続けている……ものの、見た目にはしーんとした来店の目的がわからない婦人こと私が店内を徘徊している。

シルバニアファミリーを見つけ、お小遣いでは手が届かずお菓子の空き箱で自作していたシルバニアハウスの本物をチラッとだけ見て通り過ぎる。うさぎの服もかぎ針で編んだっけ。

それから、唯一トイザらスの中で関心が向くジグソーパズルのコーナーを見つけひと通り眺めた。
私の夢はジグソーパズルカフェを開くことだ。韓国ソウルで友だちに連れて行ってもらったジグソーパズルカフェは、大きなテーブル席でジグソーパズルが楽しめるカフェで、キープボトルならぬキープパズルもできる。次回来店時に、前回の途中からまたパズルを楽しめることができるのだ。
そんなファンタスティックなカフェで、 “ジグソーパズルのやり方”を友に教えてもらったときの感動は忘れられない。「ジグソーパズルはまずいちばん外側のピースを探して外枠を作ってしまってから始める」というやり方をその日彼女に教えてもらうまで知らなかった私には、ジグソーパズルほど無鉄砲で暗中模索なゲームはない、と思っていた。でも彼女のおかげで私のジグソーパズルの世界は開けた。今でもあの日の彼女に感謝している。
今日も来店したついでにどれか購入しようかとも考えたが、じんましんでパズルしてる場合じゃゼッタイない、と自粛した。

スマホを見る。皮膚科で渡された受付番号の紙のQRコードにアクセスすると現在の待ち時間が分かるという。まだまだ全く時間があった。

お喋り人形のコーナーで立ち止まる。犬とか猫とかいろんなぬいぐるみの、話しかけると甲高い声でマネして返してくれるパンダの“りんちゃん”と同じタイプのが陳列されている。話しかけたい。でも電池が入ってないので無言で対峙するほかなかった。一体くらい動くようにしといてよトイザらス……私もかつてのキッズよ。

角を曲がると、頬を撫でたりするとまばたきしたりゴロゴロ鳴いたりする猫のぬいぐるみがあった。恐ごわ頬を触ってみる。と、ものすごく電動感を出して動いた猫に、期待はずれということもなかったが、やはり開けてはいけない扉を開けてしまったような心地で、まだまだ猫は動き続けていたけれど、そろりと横目にその場を立ち去った。

地下にベビザラスがあったが、そちらはもっと踏み込んではいけない気がして、階段を降りるのはとどまった。

ちょっと早いけれど皮膚科へ戻ることにした。あと5人ほど待ちだった。
診察は2分ほどで終わり、薬をもらって、店じまいして薄暗くなったトイザらスの前を横切り、家路に就いた。

病院の待ち時間の暇つぶしでもない限り、トイザらスに行くことももうないのだろうか。 けどいつか、ジグソーパズルを買いに行きたい。
まだまだ、こどもでいたい。ずっとトイザらスキッズでいたい。大好きなパズルにかこまれて。