大島智衣の「oh! しまった!!」

しまったあれこれ随想録

〈44〉どういうときのじぶんが好き

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どういうときのじぶんが好きだろう。

益田ミリさんの『女という生きもの』という本のなかで、夏でも着物を着こなしている年配女性に出先の化粧室で出会ったミリさんが、迷いながらも「素敵ですね!」と声を掛けると、その女性がパッと笑顔になり、 “わたしに素敵って言われたことで、あの人がいい気分になってくれたとしたら嬉しい。わたしはこういうときの自分が好きだった。” とあった。(エッセイ『昔、美人』より)

うん、うん、うん。と思った。そして、そんなミリさんも素敵。

素敵だったら、素敵。おいしかったら、おいしい! がんばっているひとがいたら、ねぎらいたい。つらそうなひとがいたら、つらいよね案じているよと伝えたい。
じぶんがされたら、うれしいから。それを信じて、不必要かなぁと迷っても、声を掛けたいなと思う。

電車の中で、席が飛び飛びにしか空いていなく、二人連れのひとが並んで座れず(どうする? 離れて座る? それともキミは座ってボクは前に立つよ?)みたいな、ちょっと一瞬オロオロするところに遭遇することはよくある。

そういうとき、私がよっこらと横にずれる、もしくはちょいと立って反対側の席に座るなどすれば、円満解決するという場合は、すすんでそうする。
間違いなく感謝され、私も満足。私だってそうされたい。されたら、だよね・ですよね・ありがとうございます! と感謝する。

もしも、そうせずドカっと一ミリも動かない人を見ると、どんなメンタルなんだ? 私には耐えられないが! と感心すらしたりする。

なんなら私なんて、そういう事態を未然に防ぐために、どうせすぐ席が埋まる入れ替わり激しい時間帯には、三席空いていたらやほーいと真ん中に座ったりせず、敢えて端の席に腰をおろして“並び席”を残し、二人客の到来に備えたりさえするし、こういうときのじぶんが、好きかもしれない。世界の秩序、勝手に請負人。みたいな気になって、じぶんは正しい美しい、と信じられる行動をしているときのじぶんが。

ま、ね。一概に何が正しい美しいとはいえないし、私だってうるさくてムカつくカップルだったら立って反対側の席に移動してまで譲ったりしないけれどね。いと、さもしや。

そんなじぶんの矛盾さについて、女友だちにこぼしたら、
「いいんだよ、じぶんのその日の気分次第で。やれない日もある。笑」
こんな風に言ってくれる彼女が好きだ。統一性のない気分のムラすら肯定してくれる。

素敵! おいしい! 同様、好きって気持ちももっと伝えられたらいいのになと思う。ほのかに好意をもっているけど絶対に好きとか言えない相手にも。フラれたら泣くけど。

じぶんのキライなところなんていくらでもある。
けれどこの前、暗い夜道で突如、足元で激しくジジジッ!!!とバタつく何かに死ぬほど驚き「ぎゃぁああ!!!」とのけぞり叫ぶもそれがセミだと分かったとき、安堵とビビリ過ぎた己の醜態ぶりにひとり大爆笑してしまったじぶんも、まぁ好きだ。好きなところも、いくらでもある。いつも何かにつけ、せつないじぶんも。 いつも「どこでもいいよ」「私もどこでも」というけど、横浜でもいいよとは決して言い出してくれない東京の友だち。せつない。留めたホチキスの針がいつもうまく外せないじぶん。せつない。怒りや妬みやもどかしさを、ずっとずっと矯正しようとしてきたこれまでと、きっとこれからも? というしんどさ……。せつな!

先日、とある新聞で内田也哉子さんが“私は..絵本でも映画でも、どこか、さみしさがあるものが好き。でも、「子どもには夢を持てるような作品に触れさせてあげないといけないのに」と葛藤していました”と語っているのを読んでとても心がほどかれた。「さみしさがあるものが好き」と言ってくれる人がいて、うれしかった。

世の中は、夢があって前向きで希望を見出す結末しか、話したりつぶやいたり描いたりしちゃいけなくて、息をひそめていなければならない気にさせられる。
でも。せつないよね、かなしいよね、さみしいよね。とかも、皆んなもっと言っていいと思う。すくなくとも私は、そういったものに、ほっとする。励まされる。そうしてやがて、立ち上がれる。

「前向きに!」って言うけど、後ろを向いてるんじゃないんだよ。
立ってもいられずに、しゃがみ込んじゃってるんだよ。

どっちが前で後ろでとかそういうことじゃなくて、ただもうずっとその場にしゃがみ込んでしまっているひとには、そうしたものが、必要だと思う。

せつなさ、かなしさ、さみしさ、には、はなたれるそのときに、それ自体に、ぎゅっとつよい、祈りが込められている。
そしてそれが、受け取った人のなかで、一文字一文字、一音一音、一コマ一コマ……唱えられるごとに、しかと届くよう響くよう佳く作用するよう、切に願われながら。

どういうときのじぶんが、あなたは好きですか。