〈60〉なまはげの見せる夢
「昨日の晩、すごくコワい夢を見てさ」と母に話しかけると、「私も。なまはげに追いかけられる夢を見た」と遥かコワさレベルの上をいかれた。
さすがだなぁ、と思った。さすが、なまはげの故郷である秋田は男鹿出身の人間だ。見る夢が違う。
と同時に、不憫にも思った。生まれた土地に鬼がいるなんて。そして齢七十を越えてなお、その鬼に夢で追いかけられるなんて。高卒で秋田を出て、いったい何年経ってんだ。
幼い頃は私も、家族みんなでの帰省時に、なまはげにこっぴどくぎゃんぎゃんやられたけど、今でも夢に見るなんてことはない。その晩おねしょをしたぐらいで済んだ(済んだ?)。
だからいまだに夢でなまはげに追いかけられちゃう男鹿の人を、〈三つ子の魂百まで〉っていうか、〈男鹿のなまはげ百まで〉って感じで、悪いけど笑ってしまった。
とはいえ私も、今でも見る悪夢がある。セリフを全然覚えていないのに舞台に立つ夢だ。
これがまぁコワい。演劇人にはあるあるの夢だと思うけど、私なぞ最後に舞台に立ってからもう15年は経っているのに、今でもまだ、そんな夢を見る。やんなっちゃう。高校演劇の魂いつまでだ。うかつに演劇なんてやるもんじゃない。
いや、それにしても、なまはげ。
なまはげの夢を見ちゃう、って秋田あるあるなんだろうか?
ご当地それぞれに、あるあるな夢があるのだろうか?
いや、なまはげとゆるキャラは、全然別だ。
なまはげにゆるさは、一切ない。