〈64〉ふり返ったらマイケル・ジャクソン
小学校の給食の時間、教室のテレビに映し出されたマイケル・ジャクソン『スリラー』のミュージックビデオは衝撃でした。
おそらくは、当時流行していたマイケルのイカした最新MVを、早熟な高学年の放送委員である生徒が、己の趣向と権力を行使し、連日のようにヘビロテで掛け流していたのでしょう。それはそれは連日のようにヘビロテで。
けれど小学校低学年の私にはその最先端でクール過ぎるMV・世界観があまりに総じて恐ろしく、オオカミ男からゾンビ化に至るまでのマイケルの顔はそれはもう恐くて怖くて。芸術性とかクリエイティヴィティとか、まるで理解できませんからその頃は。
放課後、団地4階の自宅へと薄暗い階段を駆け上がるまで、何度階段の下でマイケルが「ぐああ!!」と牙を剥きポージングをキメてる姿を想像して縮み上がったことでしょう……!
ちなみに、当時住んでいた団地の階段は、一つの階を上がるのに踊り場で折り返すタイプではなく、今ではめずらしいストレートに長い階段で、一度転げ落ちたらひとたまりもありません。転げ落ちたことがあるので分かります。
おかげで、キング・オブ・ポップのリスペクトすべき偉大さや名作MVのカッコよさなど微塵も受け取らずに、ただひたすらにスリルだけを受け取ったのでした。まさに“スリラー”、あっぱれ(笑)。
階段下のマイケルに心底怯えたこと──。
月ほど遠い過去ではないけれど、今では笑える月夜に浮かぶ思い出です。