〈65〉タンタンメンハ、アリマス
お昼どきにひとりで中華料理屋さんへ入ったときのこと。
隣の円卓では、10余名のお腹ペコペコご婦人団体がメニュー選びに忙しそう。
ご婦人A「タンタンメンっておいしいかしら。辛いかしら」
ご婦人B「タンタンメンは知らないけど、タンメンは野菜がいっぱいよ」
さんざんにあれやこれやと迷っていた数多ご婦人たちは、ご婦人Bによるタンメン推しコメントを聞いて、一気に腹が決まったようだった。
ご婦人C「いいわね野菜がとれて。じゃ、私タンメン」
ご婦人D「私もタンメン」
ご婦人E「私も」
ご婦人F「私も」
ご婦人G...「タンメンで!」
続々とオーダーされる人気沸騰メニュー、タンメン。
私も、すでに日替わりメニュー「鶏肉とカシューナッツ炒め定食(ライス・スープ・漬物・デザート付)」を頼んでいたけれど、タンメンにぐっと心惹かれていた。
すると中国人の店員さんが、
「タンメンハ、アリマセン」
へ?
「タンメンハ、アリマセン。タンタンメンハ、アリマス」
へ……?
そもそもメニューにタンメンなどなかったのだ。
誰だ? タンメンタンメン言い出したのは。
ご婦人Bもタンメンがあるとは言ってない。
「タンタンメンは知らないけど、タンメンは野菜がいっぱいよ」
と、引き合いに出しただけ。
それなのに、隣のテーブルの私までタンメンの口になってた。
なにこれ?
これって……あれでは?
「オメェに食わせるタンメンはネェ!!」
まさか、あの有名ギャグをリアルに現実で言われている状況に遭遇するとは。
なんてこった。食欲とは、メニュー表にないメニューをさえ、そこにあるものと錯覚させるのだろうか……?
あっさりとメニュー外通告をされたタンメンご婦人たちは、「なによー」「じゃぁどれにする?」と散りぢりになってまたイチからメニューを考え始めた。
私には「鶏肉とカシューナッツ炒め定食」が運ばれてきた。
それにしても。奇天烈なギャグのフレーズも、ふとした瞬間に実世界に降りてくることがある。そんな場面に立ち会えるのなら、一人の中華ランチも悪くない。そう、パンパンのお腹で店を出た。ごちそうさまさまでした。