大島智衣の「oh! しまった!!」

しまったあれこれ随想録

〈2〉むかしむかしあるところに馬鈴薯姫

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デスクで食事をしている人を見ると「よく人前で食べられるなぁ」と思う。

私にはできない。
だって一人で食べるのって、“一人でする”のと……同じじゃない? と思ってしまう。

お店とか休憩スペースで食べるならいい。
だけど、食空間ではないオフィスで、デスクで、いきなり食べ始めるって……なんか恥ずかしくない?

決して「食べるな」と言ってるんじゃなくて、「恥ずかしくない? 見られとるよ?」と勝手に赤面してしまう。

人前で裸になるのは恥ずかしいけど、そこが銭湯ならええいと脱げる。
人前で思うままに食べるのは恥ずかしいけど、食堂なら食べられる。

だけど職場で裸にはなれない。欲求に準じられない。なれないよね!?

だからどんなに面倒でも、同僚に疎まれようとも、私はランチを一人、職場から外へ出てって食べる。思う存分に食欲を満たすために。

……なんてややこしい倫理観(?)なのだろう。

たまにどうしてもデスクでサッと食べなければならない時には、仕方のないことだけれど、たいそう苦痛である。何かのプレイだろうか、とさえ思う。ただし、それに興奮するほどの変態ではないから安心してほしい。

気になる男性とごはんを食べに行ったときのこと。

お店で待ち合わせて、向かい合って席に着き、お互いにメニューを開いて選び始めた。会話もそこそこに。

え、いきなり? 私たちいきなりベッドイン? 会うなり早々、しちゃう感じ?

そんな心地がして恥ずかしくてたまらなかった。
でも、好きな人とならそれもまた良かったりもする。これについては変態と思われてもいい。

一人で食べるのは、一人の“そういった”行為。
二人で食べるのは、二人の“そういった”行為。
三人以上だったら、それは……“歓談”。

そう思う。

食べるということは、実に、快楽に直結した、性的で生理的で個人的な行為だ。大好きだし、とても大切にしたい行為だ。

疲れて帰ってきて、無心で食べるポテトチップスのどれだけ至悦の極みなことか。
袋を開けた瞬間に思いっきり吸い込むポテトの香りは、この世で最もおいしい空気だと思う。

そんな鼻腔を突き抜ける快感に痺れ酔いしれることから始まり、最後には袋を口にガーッ。木っ端なポテトたちを喰むは其れ、まま絶頂。
……お行儀が悪くてごめんなさい。でもだって、お行儀が悪いことって気持ちイイんだもの。違う?

そんなこともあって、誰も知らないと思うけど、私は人前でポテトチップスを食べたことはない。どうでもいいだろうけど、デスクめしも食べられない。

こんな私が夢見ること……それは、いつか白馬に乗った王子様が迎えに来てくれたなら。ポテトチップスを持って。そして二人で、こっそりと、ポリポリしたい。

こうして二人は、ポテトチップスをかすがいに仲睦まじく、いつまでもいつもでも、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

……そんな風になれれば、なんて完ぺきなおとぎ話だろう。童話『馬鈴薯姫』として語り継ぎたい。

それまでは向こう当面、これまで通り、おいしいポテトチップス探しに注力したい。
最近はもっぱら、ヤマザキの「アツギリ贅沢ポテト」がお気に入りです。セブンイレブンに売ってることが多いです。